「あそこの家はキュウリを作れないからねえ」
とおばあちゃんが畑で採ったばかりのキュウリを袋に入れながら言いました。

「どうして作れないの?」

「さあ、どうしてかねえ。昔から作れない家があるんだよ」

「食べるのはいいの?」

「食べるのはかまわないんだよ。家の畑で作れないだけ。でも、作るのはいいけど食べちゃいけない家っていうのもあるよ」

「えっ、そうなの」

キュウリを届けに行ったとき、その家の人にキュウリを作れないわけを聞いてみました―

神様に願かけした家

高柴のデコ屋敷近くに、[疱瘡神](ほうそうしん)と書かれているほこら(小さな神社)がある。
疱瘡というのは、むかし世界中で流行した死亡率の高い伝染病のことで、天然痘(てんねんとう)とも呼ばれて恐れられた。

昔、西田町でもこの疱瘡が流行ったことがあり、なんとかこの恐ろしいはやり病をしずめたい、と思ったこの辺りの人々は、みんなで相談して神様にお願いすることにした。

小さなほこらを建てて、そこに疱瘡神をお祭りし、ご神前にお供えを上げると、みんなで神様にお祈りした。

「神様、どうかこの流行り病を鎮めてください。地域のみんなが元気に暮らせるようにしてください。
もしもこの願いを聞いてくださるなら、これから先、家の畑ではずっとキュウリを作りません」

それから間もなくして、疱瘡の流行はしずまり、みんなは安心して暮らせるようになった。
そして、そのとき神様に願掛けをした家々では、今でも約束を守って、ほかの野菜は作ってもキュウリだけは作らないのだそうだ。

―キュウリを作らないわけは、ご先祖様の願掛けでした。

「でも、うちがキュウリを作れないってみんな知ってるから、こうしてあちこちからおいしいキュウリをいただくことができて、とってもありがたいよ。どうもありがとう」

お話してくれた家の人は、おばあちゃんのキュウリをとっても喜んでくれました。

キュウリを食べちゃいけない家にも、きっとなにか昔の言い伝えがありそうです。


〇お話をしてくれた人 渡辺典子さん(丹伊田)橋本恵市さん(高柴)